版画の技法
版画をもっと良く知って頂けたら幸いと、版画の技法について以下に簡単に紹介します。
版画の種類
@ 凸版
線や面としてあらわしたい部分は彫らずに残し、その残した凸部に絵具やインクを塗って、紙をのせ、バレンでこすったり(日本)、プレスで写し取る(西洋)方法。
◎木版画【板目(いため)木版・木口(こぐち)木版】
木を彫って版とする技法で、板目木版と木口木版の2種類がある。板目木版は、一本の木を縦の方向に切り出した木材を使い、木口木版の場合、木材を横方向に輪切りの状態に切り出したものを使う。板目木版には桜、桂、朴(ほお)などの木が使われ、木口木版にはツゲ、椿など非常に目の詰まった堅い木が使われる。一般に、木版画といえば浮世絵などに代表される板目木版をさすことが多い。木口木版ではビュランに似た鋭い彫刻刀で細かな線が彫り込まれ、緻密な描写がなされる。
◎リノカット
木の代わりに、ゴムや天然樹脂でできた床材リノリウムを彫る技法。繊細な描写には向かないが、おおまかで、勢いのある表現には優れている。
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A 凹版
線や面としてあらわしたい部分を、彫ったり腐蝕させたりして、溝や窪みを作る。そこに、インクをつめて表面の余分なインクを拭きとってから、紙をのせ圧力をかけて、インクを刷りとる方法。
◎直刻法(直接彫って版に凹部を作る方法)
■エングレーヴィング
ビュラン(鋭い彫刻刀)で、金属版を直接彫る技法。
■ドライポイント
ニードル(尖った針)やナイフなどで、版を直接引っかくようにして描画する技法。ビュランと違い、ニードルやナイフは刃を動かす方向が制限されないので、自由な線を描くことができる。また、金属を引っかいたり彫ったりすると、削りカスや、まくれあがった部分が彫った線の両側に残る。これを「まくれ」と呼ぶ。まくれについたインクは、独特のにじみを作って、深い調子の表現を生むことができる。が、耐久性はないので、あまり多くの枚数を刷ることはできない。
■メゾチント
櫛状の刃がついたロッカーと呼ばれる道具で、版全体に細かい傷をつけて全面にまくれを作り、そこにインクがのるようにしておく。この状態でプレス機にかけると、ビロードのような質感をもった黒に刷りあがる。この「まくれ」(細かい傷)を部分的に取りのぞいて磨いて、さまざまな段階の明暗の色調を作り出して図像を描いていく技法。黒の微妙な階調が重要なので、フランス語では「マニエール・ノワール(黒の技法)」とも呼ばれる。
◎腐蝕法(酸で金属を腐蝕して版に凹版を作る方法)
■エッチング
まず、磨いた金属版に、グランドという防触剤(松ヤニ、アスファルト、蜜ロウの混合物)をぬる。次に、線としてあらわしたい部分をニードル(尖った針)で引っかくように線を描くと、グランドがはがれて、その線の部分にだけ金属面が出てくる。この金属版を、酸の溶液(硝酸や塩化第二鉄)に浸すと、その部分だけが腐蝕され、線状の窪みができる。
■アクアチント
版上に細かい点状の凹凸を作り、面的な濃淡の色調で、絵を描いていく技法。まず、原版に松ヤニの粉末を付着させ、熱して松ヤニを定着させる。それから、この原版を酸の溶液に浸すと松ヤニのついていない部分が腐蝕する。松ヤニを拭き取ると、金属版に無数の点状の凹凸ができている。この版にインクをのせて刷ると、グレーの面に刷りあがる。部分的にグランドをひいて腐蝕時間を変えながら、明暗のグラデーションを作ったり、(腐蝕時間が長いほど濃い)、筆でじかに腐蝕液を塗って、筆の動きをあらわしたりすることができる。仕上がりは水彩画に似た効果になるので、「アクア(水)、チント(淡彩)」と呼ばれる。
■ソフトグランド・エッチング
エッチングのグランド(防蝕剤)に、獣脂などを加えて、固まらないようにした柔らかい防蝕剤(ソフトグランド)を使う。防蝕剤(ソフトグランド)を塗った版に紙を重ね、上から鉛筆などで絵を描くと、描線の部分のグランド(防蝕剤)が紙に移ってはがれる。これを、酸で腐蝕する技法。絵を描くときにかける圧力の強弱で、グランド(防蝕剤)のはがれかたも微妙に変わり、描線の細かい強弱までをも版にあらわすことができる。このことから、鉛筆やクレヨンのタッチをそのまま生かした表現もできるし、木の葉やレースなどの実物の材質感を写しとることもできる。
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B 平版
凸版や凹版のように版に凹凸をつけるのではなく、化学処理により、凹凸のない平らな面に、インクののる部分と、のらない部分を作って、転写して刷りとる方法。
◎リトグラフ(石版画)
水と油は、互いに混じり合わずに反発しあうという現象を利用する技法。まず、高純度の石灰石に脂肪性のクレヨンやインクで描き、次に弱酸性溶液(アラビアゴムと硝酸の混合液)を塗ると、化学変化によって描かれた部分は油性物質を強く引きつける力を持ち、描かれていない部分は水分を保持するようになる。こうして石面上に水分をはじく部分(油性物質を受け入れる部分)と、水分を保つ部分ができる。石面を水で湿らせた後に印刷用の油性インクをのせると、描いた部分にのみインクは付着し、その他の部分では保持された水分のためにインクははじかれて残らない。最後に、石面に紙をあてて刷り上げる。
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C 孔版
版の孔(穴、開口部のこと)を通して、インクを版の下に押し出して刷る方法。大きく3つに分けられる。ステンシル【合羽版(かっぱばん)】のように型紙を使うもの、謄写版のようにロウをひいた紙を使うものとある。この技法では、版画技法の中で唯一、下絵を反転せずに、そのまま刷りとることができる。
◎ステンシル(合羽版・ポショワール)
彩色したい部分を型紙から切り抜いて、その孔のあいた部分から、絵具を刷毛で紙などへ写しとる技法。日本では合羽版、西洋ではステンシル(フランス語ではポショワール)と呼ばれる。
◎シルクスクリーン
四角形の木製(あるいはアルミ製)の枠に、布(当初は絹)を張り、その布に、インクが通過する部分と通過しない部分を作る。そして、スキージという厚いゴムのヘラで、スクリーン上をこすって、インクを版の下へと押し出して、写しとる方法。版画の技法としては、最も新しい。
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(町田市立国際版画美術館 資料参考)
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